THE ROOTS

INTERVIEW

「恩送り」の精神

森倫洋

AI-EI法律事務所森倫洋

略歴

東京大学法学部第一類、ハーバード大学ロースクール卒業。裁判官を10年務めた後、日本最大の法律事務所で長くパートナーとして活躍。2019年4月に独立。数百億円・千億円単位の大型紛争案件やJAL・林原など大型の再建案件を含め、多くの大型・著名案件で実績があり、海外のランキング誌でも常連。著作・論文も多数。

現在の仕事についた経緯は?

高校までは家業(理容・美容室チェーン店経営)を基にしてビジネスを拡大することを夢見ていました。東京大学文科Ⅰ類合格後、大学1年の時に父親が逝去し、母親が家業を継いだのを機に、資格をとるため司法試験を目指すことにしました。合格当初は、M&A等を扱うビジネス弁護士を目指していましたが、修習時、裁判官に勧誘され、裁判官のキャリアの中で、民事立法を扱う仕事があるのを聞いて興味を抱き、任官しました。東京地裁配属後、留学し、その後最高裁民事局に配属されて倒産法改正に従事する機会を得ました。その後、福岡に赴任しましたが、任期満了を機に、企業の再建を弁護士として扱いたいと思い、当時の西村ときわ法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)に入りました。同所には14年間いましたが、徐々に企業再建より紛争案件を多く扱うようになり、大手の事務所だと顧客間のコンフリクト(利害相反)も多いため、より自由に企業間紛争を扱える環境を目指して、独立したものです。

仕事へのこだわり

法曹の世界では、1年目から一人前の「裁判官」「検事」「弁護士」と扱われ、各人がプロフェッショナルであることを当然に期待されます。そうした世界で大事なのは、以下の3つだと思っています。

第1に「自己研鑽」です。法曹の世界はプロである以上、人から何かを「教わる」のではなく、自ら「学ぶ」世界です。初任の挨拶の際に裁判長に最初に言われた言葉は、自分が教えるものではなく「事件が先生だ」というものでした。そうした自己研鑽の世界において、自分を成長させる一番の近道は、より多くの案件、より難しい案件に取り組み、そこから自ら学んで吸収することです。多くの案件・手間のかかる難しい案件を与えられることは、それだけ成長機会が多いということですから、面倒だと思わず、「ありがたい」ことと思って、積極的に案件に取り組んできたつもりです。

第2に「プロ意識」を持つこと、換言すれば「職人気質」であることです。若い頃、裁判所の大先輩から仕事に際して「名を惜しむ」ようにアドバイスされたことがあります。法曹の世界では、裁判官が典型ですが、自分の署名のもとで成果物(判決)を出します。安易に自分の名前を記すのではなく、出した成果物に対して自分として責任とプライドをもつよう「名を惜しむ」意識をもって臨むことが、プロとしての自覚を促すことになるとともに、長期的な信頼の獲得につながるように思います。

第3に「多角的視点」で物事を見ることです。依頼者が話をするのをただ聞くだけでは不十分で、正しく事案を把握するには、視野を広げて物事を見て、情報を適切に引き出すことが必要です。また、依頼者の目線だけでなく、紛争の場面では相手がどう出てくるかを予測するために「相手方目線」で物事が見えることや、裁判所がどう見るかという「裁判官目線」で物事が見えることも重要です。依頼者のニーズを適切に把握し、法規範に照らして適切なゴールを設定した上で、ゴール達成のプランを適切に組み立て、遂行していくのが弁護士の仕事だと思います。

若者へのメッセージ

社会人になれば、生活の多くの時間は仕事に費やされます。仕事を「生活のため」ではなく、「生活として」それ自体を「楽しんで」できるようになれば、それだけ人生は充実するように思います。
ただ、もとより皆が最初からそのようなことができるわけでありません。スポーツで基礎練習や筋トレ・体力づくりが重要なように、仕事にも、それ自体は面白くなくても「基礎を身につける」ために必要なことがあります。そうしたことも、自分の将来ビジョンを持って、そこにどう活かすかを考えつつやれば乗り越えられますし、身に付き方も違うと思います。
そうして基礎ができた上で、自分のスタイルを確立して「自分だけのバリュー」が発揮できるようになれば、より仕事は楽しくなると思います。
私の座右の銘の「恩送り」は、法曹の世界の文化として大先輩から教えられた言葉で、先輩から受けた「恩」は先輩に「返す」のでなく、後輩に「送る」ように言われました。次世代を担う若い方々に今後「恩送り」ができればと思います。

※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。