THE ROOTS

INTERVIEW

不動心

溝口伸一

スマーツメディカル株式会社溝口伸一

略歴

ゴッドハンドの異名をとる臨床家。ウサイン・ボルト選手(リオ五輪100m・200m金メダリスト 100m・200m世界記録保持者)、ウェイド・バンニーキルク選手(リオ五輪400m金メダリスト 400m世界記録保持者)らが出場した国際陸上レースでDr.Shinichi MIZOGUCHIとして公認スポーツトレーナーを務める。一日に1,500発以上の鍼を打ち続ける鍼灸師・柔整師・家庭教師。一般患者だけではなくプロスポーツ選手、芸能人などの治療も行う。また皮膚・内臓・脳疾患など、多くの患者が国内遠方や海外から訪れる。SMARTS鍼灸整骨院 院長。
※臨床家とは患者の治療・ケアをする医療従事者のこと。

現在の仕事についた経緯は?

私が中学生の時に原因不明の高血圧症を患い、いろんな病院を回りましたが一向に下がりませんでした。ちょうど高校受験を控え、野球の名門校への進学を目指していた時期だったため、相当焦りました。現にドクターからも「もう野球は諦めてください」と言われていましたし、どうしたらいいのかわからない時に盲目の鍼灸師・中村先生という方に出会いました。あれだけ下がらなかった血圧が徐々に下がり始め、数か月後には正常値まで戻りました。その後、名門校へ進学し地獄のような厳しい練習に明け暮れましたよ。本当にきつい三年間でした。しかし、苦しいことも楽しいことも経験できたのは中村先生のお陰です。その時に、もしプロ野球選手になれなかったら鍼灸師になろうと思っていました。野球の方は肩などを手術して夢は叶いませんでしたが、そういう諸々の紆余曲折を経て、今こうやってセカンドチャンスを何とかものにしたっていう感じです。

仕事へのこだわり

そのシーン、場面、場面において、その時に出来得ることをすべてやるということ。簡単にいうと、治療に出し惜しみをしないということです。これは終始一貫、ずっと守り続けてきたことです。そのためには膨大な知識と圧倒的な技術研鑽を必要とします。ですから、新人時代から、いや正確に言うと学生時代から日々の努力は当たり前だということを自分自身に言い聞かせてきました。ですから、私の中には努力という言葉は存在しません。どちらかというと、努力するということよりも継続するということに重きを置くスタンスでやってきました。この二つは今でも、私を治療現場に立たせる二本足の役割を果たしていると言えるでしょう。仕事へのこだわりになるのかどうかはわかりませんが、間違いなくこの二つがなければ治療現場へは立てていませんね。

若者へのメッセージ

今の若い人は、私たちの若い頃に比べると多くの情報をネットで拾い上げることができます。これは当時の私たちにはない大きな武器であり、自己研鑽するにあたってのレシピがたくさん詰まっています。もうこれだけで十分すぎるほどのアドバンテージが今の若い人に与えられていると言っても過言ではないでしょう。私たちの若い頃よりも、既に成長するための下地が整っているということです。
しかし、恵まれすぎた環境によって、本来人間が持っている野性味や個性がなくなっているように思えます。そういった部分では我々の若い頃の方が優っていたでしょうね。なぜか私には、今の若い人がみんな養殖魚に見えてしまうんです。
じゃあ、今の若い人達だけに責任があるかというとそうではありません。一度、幼稚園の入園式に行ってみてください。そこにその答えが詰まっています。私は幼稚園のオーナー兼保育士さんや現役保育士さんとお話しする機会があるのですが、昨今の保育士さんの定着率は本当に低く、勤務初日や三日で辞めていく人も少なくないそうです。私は給料や労働環境の悪さ、人手不足などの問題がそうさせているとつい最近まで思っていました。
実は数か月前、私はその入園式に参加しました。一目見て、「こりゃダメだ」と思いました。子が親離れしていないだけでなく、親が子離れしていないのです。もう唖然としましたね。先日、私の本(ゴッドハンドが語る スポーツと医療)が発売されましたが、その中にもそれがどういうことを意味しているのかを書いています。
もともと野生動物だった動物が人間の手で飼育されると野生的本能や野生的習慣というものを忘れ、殆どの動物は野生に帰ることができません。帰ることができないどころか、高い確率で死んでしまうそうです。決まった時間に起こされ、決まった時間にエサを与えられ、自由に寝たり遊んだり、そしてルールを守る必要もない。そこには敵対する動物さえもいません。いわゆる弱肉強食の環境がない、競争のない温室環境で育った動物は、野生的本能や野生的習慣の機能が低下してしまうというわけです。
人間社会でもそれに似た現象があり、親がいつまでもペットのように甘やかし、何でも親が子に与え、子がずっと親に頼るという構図を二歳、三歳までに作られてしまう。そのうち自分で考え、自分で選択し、自分で行動するという人間的野性味がだんだんと失せていきます。与えられることばかりの環境ですから、自ら得るという行動ができないし、いちいち教えないとできない子ばかりになってしまう。今や「見て覚える」「盗んで覚える」ということが死語に近いですからね。
スズメ百まで踊り忘れず。三つ子の魂百までも・・・・・・とはよく言ったもので、、その子の性格のベースはこの時期に形成されてしまいます(遺伝は別として)。そんな親に育てられた三歳児が入園してくるわけですから、そりゃあ保育士さんたちはたまったものではありません。定着率も悪くなる一方ですよ。若者に物を申すというよりは、親に対して物を申したい。一刻も早く子離れして大人になりなさいと。子供が大人になり切れないコトナが非常に多い。早くコトナが大人にならないと子は真の意味で自立しませんよ。今やっていることがお子さんの将来と成長を阻害しているということを早くわかってほしいですね。
最後に「若者へのメッセージ」ということで・・・・・・、今言ったように自分が好むと好まざるとにかかわらず、生まれてから三歳までは自動的に親の趣向で育てられます。この時に形成された部分の影響がその後の人生にも大きく関わります。ある名監督(プロ野球)が人生の大半は性格で決まるという名言をはきましたが、近からずとも遠からずです。
若い時はこういった人工的に背負わされてきたものを一旦リセット、ニュートラルにするために、一度自分が持っている枠から大きくはみ出すことも大事だと思います。
今の時代、ビートたけしさんや明石家さんまさんが出現できるような土壌ではないですよね。あんなことを今の時代にやったら間違いなくアウト。昔は枠から大きくはみ出しても許された時代だったし、やり直しがいくらでもきいた時代でしたから、ビートたけしさんや明石家さんまさんというスーパースターが誕生したんです。今の時代、スーパースターを輩出するのはなかなか難しいんじゃないのかなぁ・・・・・・。
だから、今の若い人達に言いたい。一度くらい枠を大きくはみ出してもいいから、思いっきりやりたいことに熱中してくださいと。若い時だけではなく、人生はやるかやらないかです。やりっ放しはやらないよりまだ悪い。一度はレッドゾーンまで思いっきりアクセルを踏め!ですね。

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