THE ROOTS

INTERVIEW

来たときよりもだらしなく

吉本ばなな

吉本ばなな

略歴

日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版されている。近著に「さきちゃんたちの夜」「スナックちどり」「花のベッドでひるねして」などがある。

現在の仕事についた経緯は?

子供の頃から家にたくさん本があって、本とか漫画なら買ってもらえたので、ずっと読書は好きでした。ホームズやルパンの子供向けの訳を片っ端から乱読して、あとは、いろんなノンフィクションが好きでしたね。

小説を書き始めたのは、小さいときに「私は一生、朝起きられない」と悟ったから。姉はすごく絵がうまかったので、将来絵の仕事をするだろうと思ったので、それじゃあわたしは文章を書こうと単純に決めて、それが今まで続いています。

プロになった転機は、体力と時間がもったいないから、大学を卒業しても就職しないことにしたんです。「プロにならないと、いつまでもバイト生活だ」と思って、3ヶ月ほどで仕上げたのが『キッチン』でした。全然深く考えないで書いて、父に読ませたらあんまり評判が良くなかったので、今回はダメだと思っていたら入選して、びっくりしましたね。

入選したとき、わたしが考えていた人生設計はふたつあったんです。ひとつめは、デビューした『海燕』はメジャー誌ではなかったので、売れないなりにコツコツ書かせてもらって、嫁にいく。ふたつめは、コツコツ書くうちに何かの間違いで売れて、そのころには人生経験を積んだ大人になっていて、もっといろんなものを書けるようになっている。そのどちらかを考えていたので、いきなり売れるのは本当に予想外でした。

仕事へのこだわり

デビューすると突然あちこちに呼び出されて、高い肉とか奢られるんです。急に大きいお金の計算や、仕事の采配を考えなきゃいけなくなって、「まだ学生で、なんにもやってないのに。困ったな」という気持ちが強かったのを覚えています。

そのとき「コツコツ経験を積む」という人生設計を壊さざるを得なかったのは、覚悟の時だったかもしれません。わたしの中で「もういいや。いっちゃえ!」と“荒波の中に出て行く”という選択肢を取ったのが、本当に大きかったと思います。肉を奢られて、なし崩しになっただけかもしれないけど(笑)。ずっと、自分にしかできないこと、他の人には書けないことを考えていて。例えばトルストイやドストエフスキーを読むと、たしかに感動して、人間って変わらないなと思うけれど、いま生きている作家ではないから、普段から「こういう時、彼らはどう言うだろう?」と思ったりしませんよね。

同じ時代を生きる人から「よしもとさんはいまを生きている人だな」と意識してもらうような、時代にフィットした作家でいたい気持ちはあります。

壁にぶつかったことは100回以上ありますが、それはだいたい自分が自分に嘘を積み重ねたとき。それが最終的に壁になるんだと思います。自分素直な感情を認めていれば、意外にどんな大変なことでも楽になるんです。簡単に言うと、人のせいにしないことですね。

若者へのメッセージ

わたしも人生折り返し地点なので、ここで変えないと変えられないことがあると感じています。だから、これまで通りにするのは簡単だけど、これがしたいとか、これはしないとか、こうしたらどうなるだろうとか、もっと冒険していく時だと思っています。

その中で、自分の思いの丈をぶつける作品より、これから先を生きていく人たちに役立つものを残したいですね。ある種のノウハウを残せるような、そんな小説を書いていけたらなと思っています。

これからの時代を生きていくのはとても大変だと思うので、とにかくあまり深く考えないで行動してみてほしいです。

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